「買取着物は、縁ある着物好きのもとへ」
お客様が大切にされていた買取着物は、縁あって着物好きの方の目に留まり、その季節を待って着られることになります。最近、着物友だちとお茶会や食事会を楽しんでいるという話を聞くようになりました。それも、おあつらえの着物を競うのではなく、家族からゆずられた着物やアンティーク・リサイクル着物をふだん使いで着て、集まった仲間と着物が醸し出す世界観を楽しんでいるのだとか。着物の話も奥が深く、とまらないそうです。このコラムではそんな日々の暮らしの中で自由に着物を着こなし、わくわくする時間を大切にしている着物好きな方に話を聞いていきます。
第4回は、最近、着物に目覚めたばかりという洋裁など手仕事が大好きな女性に、着物との縁や着物の日常使いの話をうかがってみました。
▼丹後ちりめんの反物<左>
小花柄に扇と四季草花が広がる丹後ちりめん。祖母から贈られ、端には呉服屋「いづみや」の印がある。自分でいつか仕立てるのが夢
▼浴衣と浴衣帯<右>
20代の頃、仕立ててもらった花柄の藍染め浴衣と半幅帯。昭和な雰囲気が気に入っていて、いまも夏になると着て出かける
最近になって着物に目覚めたのですが、もともと着物とは縁があったんです。私が7歳の時に亡くなった母の実家は、京都の丹後(現在の京丹後市)で呉服屋を営んでいました。 丹後は古くから絹織物の名産地と知られ、丹後ちりめんというと東京の名家の方々にも愛され、祖母はお得様に着物を届けるためときどき東京にも来ていました。当時では珍しい「呉服コンサルタント」という肩書きももっていましたね。
私は3人姉妹の一番上、祖母にとっては初めての女孫で何か事あるごとに着物を仕立ててくれました。七五三はもとより、お正月や誕生日などの記念日には、私にはこれ、下の妹たちにもこれというように。夏休みに姉妹3人で京都に遊びにいきますと、毎年、祖母が縫った新しい浴衣が用意されていて、着るととても気持ちがよかったことを覚えています。小さい頃の着物の思い出といえば、京都の祖母ですね。
育ての母も着道楽で、年何回か着物をあつらえていましたから、呉服屋さんもうちに出入りして反物や着物を見る機会がたくさんありました。年頃になっても着物は身近にありましたが、その頃はあまり好きになれなかったんです。胸がある方だったので、着付けのときに胸の上にタオルを何枚も巻かれるのが恥ずかしくて…。逆に洋風なものにあこがれて、働き始めるとすぐに洋裁を習い始めました。
なぜか姉妹3人とも着物に興味がなく育ってしまい、自宅を改築するときに母は着物の処分に困って、桐箪笥ごと、着物すべてをよその人にゆずりました。年をとって虫干しもできなくなり、手放すしかなかったんですね。本当は娘たちにもらってほしかったんだと思いますが…。ただ、私が一人暮らしを始めたとき、生みの母の形見にもらっていた薄紫色の小紋と、祖母が私に作るつもりで置いてあった丹後ちりめん反物は持って出たので、この2つはいまも手元に残っているんですね。
▲経(たて)絽の羽織
紫色が入った紺地に白丸模様があしらわれている。
知人が着ていた夏の羽織。薄手で軽く、この夏、冷房対策に持ち歩くつもり
これまで着物と縁がないと思っていたのですが、昨年、友だちから着物が入った行李(こうり)を一ついただく機会があったんです。その友だちが、持ち家を整理するため着物を整理する方のお手伝いをしていて、最後に残った行李の処分に困っていたんですね。訪ねて行李の中を見てみると、日本橋の呉服屋さんのたとう紙に包まれたすてきな着物や羽織がつまっていました。どれもセンスのいいもので気に入って行李ごといただき、それが着物を着るときのベースになっています。母の形見の着物を含めると20枚くらいはあります。まだ着物歴1年目の初心者ですが、会社には着付けのできる若い着物女子もいるので、いろいろ教えてもらいながら、いまある着物のふだん使いを楽しんでいます。私はどちらかというと地味な色目の着物に、明るい帯を合わせるのが好きです。半衿や帯締めなども、着物の色より濃い色をあしらいたくなります。それから、海外旅行で買ったシルクスカーフを帯揚げに合わせたり、アジア土産のバッグをアクセントにしたり、旅好きの自分らしいコーディネイトを自由に楽しんでいます。
以前、ウィーンでオペラを見に出かけたとき、イブニングドレス姿に交じって、日本人女性が一人、着物を着ていたんです。その女性がいちばん輝いて見えました。華美ではないのだけど凛として美しい。これが腰の高い外人が着るとこうまで美しく映らないのではないでしょうか。日本人を美しくみせるのが着物なんですね。かといっていまは伝統的な着方にしばられず、日々の暮らしの中に着物と親しむ時間を少しずつ増やしていきたいと思っています。
例えば、今年の夏には、透き間が涼しげな絽の羽織を冷房対策として持ち歩こうかなと。軽くてしわになりませんから、バッグに忍ばせて、電車やレストランなどで寒く感じたら洋服の上にはおろうかと。以前、待ち合わせしていた年上の女友だちが羽織を上着代わりに着て現れたのですが、とても粋に感じました。そんな着物の楽しみ方もしてみたいですね。それから、もう少し着物に馴染んできたら和裁にも挑戦しようと思っています。そして、祖母が残してくれた丹後ちりめんを、自分の手で仕立てたいですね。何かそのためになくならずに、手元に一つ残っていたように感じるんです。
赤染め黄八丈帯とあずき色羽織で華やか
着物 | 薄紫色の小紋。裏地の薄桃色もかわいらしい。母の形見の着物で、卒業にも袴と合わせて着ている。 |
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半衿 | 小紋の地色より明るい色味の半衿を合わせて |
帯 | 黄八丈を赤く染めて作り帯に仕立て直したという帯(知人より) |
帯揚げ | 薄紫色の絹の端布を使う |
帯締め | 白糸に橙と黄糸がキュート |
羽織 | あずき色の小紋羽織(知人より) |
バッグ | ゴブラン織バッグ。5,000円くらいで購入 |
大胆な花柄帯で昭和モダンガールに
着物 | 薄紫色の飛び柄紬(知人より) |
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半衿 | 着物より濃い紫色を合わせる |
帯 | 大胆な花柄がモダンな紬帯(知人より) |
帯揚げ | 薄紫系のシルクスカーフをアレンジ |
帯締め | 帯の花色に合わせて黄色を選ぶ |
草履 | 着物と同系色の柄ものを合わせる |
単衣の紬を涼しい顔で着る
着物 | 薄い灰色の飛び柄紬(知人より) |
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半衿 | 着物の涼味に合わせて薄い紫色を合わせる |
帯 | 花二輪が映える橙色の紬帯 |
帯揚げ | 同系色のシルクスカーフ |
帯締め | 帯の色より濃い色を表に使って |
バッグ | ベトナム土産のシルク地バッグ。蓮の花柄が着物にも合う |