「買取着物は、縁ある着物好きのもとへ」
お客様が大切にされていた買取着物は、縁あって着物好きの方の目に留まり、その季節を待って着られることになります。このコラムでは世代や男女の枠を超えて暮らしの中で自由に着物を着こなし、その時間を楽しまれている着物好きな方々に話を聞いていきます。
第7回は、江戸情緒をいまも残す浅草に住み、神輿担ぎと三味線が趣味という男性に、着物との縁や自分流の着こなしなどについてうかがってみました。
▼三社祭に着る町会半纏<上>
三社祭では浅草二丁目の町会半纏を着て神輿を担ぐ。半纏は言問通りにある斉藤呉服店、帯はめうがや(みょうがや)で購入。手ぬぐいは町会から調達。手ぬぐいには浅草神社の神紋「三網(みつあみ)」が描かれている
▼町会手ぬぐいと夏の扇子
<下左>三社祭に使う町内手ぬぐいと鉢巻き。毎年色が決まっていて、揃いの手ぬぐいと鉢巻きを町会より調達する。<下右>夏の扇子。下左から時計周りに、鈴虫、菖蒲、とんぼ、熱帯魚の季節柄。浅草・仲見世通り近くの文扇堂で用立てる
浅草寺裏の浅二(浅草二丁目)に住んで15年。もともと江戸文化の中心だったこの辺りはその名残が暮らしの端々にあって、住んでいる人はふつうに着物や浴衣を着ていますからね。 言問通りを渡ればしだれ柳の並木道、浅草花柳界隈ですし、5月に三社祭、夏には隅田川の花火大会もあります。この町では着物は特別のものではないんです。 住民だけでなく、移り住んだ頃から江戸ブームも起こって、浅草に着物文化を求めてやってくる人も増えてきています。10年ほど前のTVドラマ「タイガー&ドラゴン」の影響も大きかった。浅草の落語を舞台にしていましたが、浴衣姿や着物姿が満載でしたから、あのドラマも着物ブームに火を付けたと思いますね。
浅草二丁目に住むと、やはり周りは三社祭中心に動きます。町中大騒ぎの祭りを見たら、男なら神輿を担ぎたくなりますよ。すぐ町会に入って、翌年には半纏に草履姿で町内神輿を担いでいました。いろいろなしきたりは鳶頭や町会役員が親切に教えてくれますし、この辺のおやじはとにかく着物姿が格好いいんです。夏の花火大会には地元の男も女も浴衣ですから、あわてて実家から父の浴衣を持ってきて着ていましたよ。
浅草に住まなければ、着物を着ることはなかったと思います。着物を着た記憶といえば、小さい頃にお稚児さん姿で町を練り歩いたことぐらいです。ただ実家が商売をしていたので、母がつきあいでよく着物を買っていましたから、家には父が着る着物や反物もたくさんありました。聞くところによると、父は着物を着てお座敷遊びに出かけていたそうです。
▲長襦袢背と羽織裏
<左上>小唄の師匠からもらった長襦袢。背には平家物語で有名な、扇子を射る場面が描かれている。
<左下>祖父が着ていた泥染め大島紬の羽織裏。唐人と狸絵がしゃれている
▲三味線と浴衣
<右上>練習用の三味線。近所に小唄の師匠が住む縁で、小唄に三味線もあわせて習っている。
<右下>浴衣は花火の季節に着る。左は父の形見、右は実家にあったもの
祭り半纏や浴衣でなく、着物を着るようになったのは2年前。近くに住む小唄の師匠のところで、小唄と三味線を習い始めてからです。練習には着ませんが、会合や演奏会などで着物を着る機会が増えました。師匠は、着物を着ていないと声も調子も出ないと言いますね。 着物を着るときに一番気を使うは、着崩れしないようにすることです。前を合わせて帯を締めるとき、ピシッと腰でとめて着るようにします。手本にしているのは町会のおやじたち。着物や浴衣を腰で着ていますから、腰から下の部分にはしわ一つないんです。洋服ではダサくても着物になるといなせで、もう惚れ惚れしますね。
着物というのは年季が大事で、ふだんどれだけ着物を着てきたかだと思います。私は着始めたばかりの鼻たれ小僧ですが、この辺に住むおやじたちを見ていると、着物と神輿が本当に様になってくるのは60歳過ぎてからというのがわかりますね。
そういう年季が入った着物おやじになってしてみたいことは、父もしていたお座敷遊びです。そのために小唄と三味線を習っているといってもいいかもしれません(笑)。
色足袋をあわせて足元をしめる
着物と羽織 | 紺ウール地のアンサンブル。実家にあった反物を2年前に仕立てる |
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半衿 | 小唄の師匠からもらったもの。背には平家物語の一場面が描かれている |
帯 | 茶色の角帯。真ん中に波と船頭、船付場がかたどられている。水の神様を祀る浅草の地にちなんで、新仲見世通りにある呉服・和装小物ヒロヤで購入(1万2,000円くらい) |
羽織紐 | 羽織色に合わせてヒロヤで購入 |
巾着 | 帯につける印傳の巾着(ヒロヤ・約2万円)。天狗の根付けも気に入っている |
扇子 | 夏の扇子(文扇堂・2,000~3,000円) |
足袋 | 濃紺の足袋(めうがや・2,000円くらい) |
あえて白の草履でふだん使いにしてみる
着物と羽織 | 茶色亀甲柄の泥染め大島紬。泥染めなので軽くてしなやか、祖父がつきあいで作ったという贅沢な着物。羽織はまだ袖を通していない |
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帯 | 茶色の角帯。船頭柄の裏面を使う(ヒロヤ・1万2,000円くらい) |
煙草入れ | 深緑の布製煙草入れ。小銭入れとして使っている(めうがや・5,000円くらい) |
扇子 | 夏の扇子(文扇堂・2,000~3,000円) |
草履 | ビニール製の草履(めうがや・2,000円くらい) |
総絞りの兵児帯は巻いて挟むだけ
浴衣 | 傘の柄が気に入って反物から仕立てる(齋藤呉服店) |
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帯 | 紺地の総絞り兵児帯(へこおび)。父の形見 |
団扇 | 小唄の師匠一門の団扇 |
巾着 | くし柄の赤い巾着(めうがや・1,500円)。色柄違いも売っている |